古典園芸植物 細辛の世界

四代続けて細辛の栽培、品種作出をやっています。細辛の未来を危惧して、途絶えさせないためにも品種の紹介や栽培方法の情報放出をしていこうと思います。

細辛の逆芸 

細辛の葉は基本的に濃い緑が地色です。そこに様々な薄い緑の斑がのって葉模様が形成されます

ですが、一部、薄い緑の葉に濃い緑の斑がのることがあります。それを「色が逆元している芸」逆芸といいます

↓通常の芸

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↓逆芸

芙蓉錦

↓千代の寿

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逆芸が本芸の品種

→金舞鶴・御所桜・瑞玉宝・朝陽・千代の寿・錦松・芙蓉錦・村雨・夜桜 など

 

目立たない各種の芸

逆芸品種はしばしば蝶や谷、下がり藤などが見落とされがちです。他の斑の出方次第でははっきり分かるものもありますが、よく見ないと見えないこともあります。品種を見極めるために、逆芸の葉の中にどんな芸があるかを見つけることが重要になってきます。逆芸なので蝶や谷なども地色より濃くなるわけではなく、これらは地色より薄いままです

 

↓夜桜

蝶と谷がある品種です

よく似た品種に吉野(未登録)という品種があり、吉野は谷だけの品種です

他に、逆芸品種の中では芙蓉錦と村雨が共に蝶・谷を持ち、御所桜には峰があります

 

↓煌滄

蝶と下がり藤を持ちます

完成しきっていない葉でまだ色が薄いためよけいに分かりにくいですが、蝶の部分は地色とは色が極わずかに違います

上半分は下がり藤が全く見えません

下半分に斑が多く出たため、下がり藤の存在が浮き彫りになりました

 

逆芸する①

逆芸品種は時折、全体が濃い斑で覆われる、「元に戻る」ということがあります

いわゆる逆芸の逆芸です

↓御所桜

本芸である逆芸状態と、緑の斑が多く出て地色が濃い状態に見える葉が混在しています

↓朝陽

本芸(逆芸)

↓これも朝陽

上の朝陽と同じ株

全面に斑が入った時は皇陽と間違われやすくなります

↓煌滄

左が(煌滄においての)逆芸です

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逆芸する②

濃い緑の地色に薄い緑の斑をのせる、普通の色の品種でも時折逆芸します。薄い緑の斑があまりに多く出ると、濃い緑の地色がほとんどなくなり、薄い緑の部分が地色に見えることがあります

どこからが逆芸であるかという線引きはありませんが、全体的に薄くなっている状態を逆芸していると言えます

↓大斑泰山 本芸

↓大斑泰山

薄い斑が大半を覆い、逆芸しています

↓華心

右が逆芸です

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↓白雪

左が逆芸です

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逆芸ではない

・斑模様が荒れる

葉の全体に各種の斑が現れるのが通常ですが、時折、一部の芸が抜けてしまうときがあります

こういう状態を「斑模様が荒れる」といいます。どこにどのような形・大きさで抜けるかは一定していません。斑模様が荒れやすい品種とそうでない品種があり、逆芸品種では御所桜、そうでない品種では日の出などが荒れやすい品種です

・源平柄(げんぺいがら)

斑模様が荒れる状態と似ていますが、主葉脈を基準にして左右で芸の有無がきれいに割れている状態を源平柄・源平模様といいます

斑模様が荒れた状態・源平柄は逆芸のように思えますが、全体に出ているわけではないため逆芸しているとまではいえません

上の方の煌滄も通常は全体に斑が点在します。片側のみ全ての斑が無くなって、これも源平柄と表現します

↓源平柄になっている葉と同じ品種の本芸です

・洩れ斑

斑模様が荒れる・源平柄の解説で、一部の芸が抜けるという解説をしました。これは別の解釈もあって、巨大な霰斑が入ることで他の全ての芸を覆いつくしてしまい、芸が抜けたように見えるだけという解釈もあります。このような突発的な斑は本芸の解説には入りません。このような斑を「本芸から漏れた斑」洩れ斑といいます

 

逆芸は存在しない?

ここまで解説してきた内容を完全否定するような考え方を二つしていきます。一つは、「斑模様が荒れる」や「源平柄」のところと同じように巨大な斑があるとする考え方です

↑千代の寿

例えばこの品種の斑芸を書くときに、逆芸ありとして考えるなら、「地色:薄緑、斑芸:各種の斑(深緑)」となり、逆芸無しとして考えるなら「地色:深緑、斑芸:巨大な薄緑の斑が葉の大半を覆う。地色は極僅かしか残らない」となります

もう一つは地色と斑の色が逆転しているという概念自体が無いということです。「地色はこの色、斑はこの色」のみで、どちらが濃くて薄いかは関係ありません。極古い資料を見ると色すらも書いていないものもあります。狭い地域で直接株を見せ合うような世界では、見れば分かるので逆芸という概念は不要だったのかもしれません。

「逆芸」という見方は研究会で便宜上まとめた芸の名前です

 

↓金舞鶴

巨大な「斑」ではなく「地色」が黄色・金色っぽいので金舞鶴と名づけられました

↓白虎

未登録のまま消滅した品種ですが、このような紺亀甲系の逆芸品種は実生選抜する上でいくつも発生しました

村雨

これらの写真や他の逆芸品種の写真を見ていくと、やはり巨大な薄い緑の斑と考えるより、濃い緑の斑が点在すると見る方が自然で、なおかつ分かりやすいかと思います。もちろん色々な考え方がありますし、植物学として見るとまた違った答えが出るのかもしれません。ただ、葉の出来を愛でる愛好家として、素直に色を見たときの印象で逆芸を追求し研究していきます