古典園芸植物 細辛の世界

四代続けて細辛の栽培、品種作出をやっています。細辛の未来を危惧して、途絶えさせないためにも品種の紹介や栽培方法の情報放出をしていこうと思います。

細辛の歴史、カンアオイとの違い

ブログの初期の頃に細辛とカンアオイのちがいについて書きましたが、色々なところからブログを見に来ていただけるようになったのと、他のところで細辛とカンアオイの違いについて質問をよく頂くようになったので、もう一度まとめておこうと思います

 

ただ、私どもは人の手で栽培され続けてきた細辛を専門としているため、薬草としての細辛やカンアオイについては詳しいわけではありませんのでご了承ください

 

江戸時代、人々は観賞目的としてカンアオイを競い合うように山で採取していました

そして突然変異により青軸・素心(緑の軸・緑の花)になった固体や、葉模様が美しいものを発見しては自慢し合っていました

(当時、青軸・素心の個体の出現率は3万分の1と言われています)

それらを観賞品としてまとめるために銘鑑が作られました

それが天保12年(1841年)に発行された、細辛の最初の銘鑑です

本物は今も国立図書館に所蔵されています

 

その後、(発行されない年もありましたが)年一回の間隔で銘鑑が発行され、登録品種の管理・共有が行われてきました

発行する団体は時代時代で名前を変え、今は「日本細辛連合会」という名前になっています

 

銘鑑が作られるようになった当時は泥軸や赤軸・色花(赤や紫の軸・花)でも斑芸のいいものは登録されていました

今では一部の品種を除き(迦陵頻・緒房亀甲・蜀光錦・葉桜)ほとんどが青軸素心の品種で、泥軸や赤軸・色花の品種は銘鑑から除外されています(鬼笑・紅孔雀など)

もともと泥軸だった品種が青軸に改良されて現代に残っている品種もあります(谷間の雪や現在未登録の羽衣)

 

こうして、約200年かけて愛好家の手で品種改良を繰り返し、細辛として登録することで、野生に存在するカンアオイとは違った魅力を持つ古典園芸植物としての細辛の世界ができあがりました

 

まとめると「細辛とカンアオイの違いは何か」に対しての答えは

「細辛とはカンアオイの園芸品種である」です

資料に基づいてもう少し詳しくすると、

カンアオイの中でも特定の種を祖先とする、人の手で改良されたもの。もしくは青軸の個体から選抜され人の元で管理されたもの。一部の例外品種を除き青軸・素心であることが条件。そしてその中でも登録されているもの。」となります

 

細辛を初めて知った人から質問を受けて説明するときはいつも

カンアオイと細辛の違いはオオカミと犬みたいなもの」と表現しています

厳密には異なるのかもしれませんがざっくりとしたところでは似ていると考えます

 

野生に存在するオオカミを昔の人は手元に置いてそこから作業・猟・愛玩等、目的に応じて様々に作り変えてきました

ペットとしての狼犬(狼と犬のハイブリッド)は作られていますが、基本的にオオカミは野生動物で犬は野生の中には存在しませんし生きていけません(ディンゴの事など詳細はおいといて)

そして犬は世界にある色々な団体により犬種管理されています

 

野生に存在するカンアオイを昔の人は手元に置いてそこから葉模様を様々に作り変えてきました

観賞対象としてカンアオイは新しい品種を作り出されていますが、基本的にカンアオイは野生種で細辛は野生の中には存在しません(生きてはいけるかもしれませんが)(昔登録されていた一部の品種は今でも山にあると聞いています)

そして細辛は連合会及び研究会により品種管理されています

 

どうですか?

似ていませんか?

 

では、登録前の細辛は細辛なのか?カンアオイなのか?

昔はカンアオイとして本で紹介されていました

先ほどのオオカミと犬で考えてみたいと思います

 

人気の豆柴、実は日本で一番権威のある犬の団体からは犬種として認められていません

ようは未登録の状態です

でも先祖代々犬で、豆柴自体も犬です

登録されていないからといっても性質はもはやオオカミとは言えません

犬の子は犬です

(豆柴→分類:オオカミ)

ティーカッププードル→分類:オオカミ)

それはそれで嫌いじゃない響きですが・・・

 

細辛も同じであると研究会としては考えます

未登録でも、先祖代々細辛である以上子孫も細辛なんです

カンアオイには戻れません

シンプルに「細辛とはカンアオイを人の元で管理してきた園芸品種である」

そういう認識で当方は新品種を作り出しています

 

 もう一つ、紛らわしいところの説明をします

サカワサイシンやウスバサイシンという名前を聞いたことがある方も多いと思います

同じ「さいしん」ですが、古典園芸として楽しまれている「細辛」とは全く違う意味を持ちます

サカワサイシンやウスバサイシンは、

ウマノスズクサ科・・・カンアオイ属・・・フタバアオイ、サカワサイシン、ウスバサイシン等

のように植物の種類の名前です

分類の詳細は奥が深すぎて脳のメモリがメルトダウンしかけたので端折ります

こちらのサイシンはカタカナで主に表記されているようです

一方、古典園芸としての「さいしん」は必ず漢字で表記されています

 

「サイシン」はまた、漢方薬としても有名で、今でも風邪薬などに入っています

「根っこが細くて辛い」から「細辛」と表記されているのもよく見かけます

こちらのサイシンはウスバサイシンが使われているようです

(こちらも専門ではないのでググった結果ですが)

少なくともこれも古典園芸としての「細辛」とは別の意味を持ちます

 

もしかしたら細辛の根っこも薬になるのかもしれませんが・・・

安全性については全くの無知なので、とりあえずやめておきましょうと言っておきます

それに、食べられるためにではなく愛でられるために産まれた細辛、すりつぶすことなく末永く愛でてやってください

アホみたいに成長が遅く、存在する数もどうも少なそうなので、しっかり守って未来に繋いでいってもらえたらと切に願います