古典園芸植物 細辛の世界

四代続けて細辛の栽培、品種作出をやっています。細辛の未来を危惧して、途絶えさせないためにも品種の紹介や栽培方法の情報放出をしていこうと思います。

本芸を知る

 本芸についてブログではまともに解説していないことに気が付いたので、今更ですがまとめておきます

形や芸の解説も、園芸JAPANという雑誌の連載に合わせて、より詳しくなるように徐々に更新していく予定です

 

 

江戸時代より、長い時間をかけて品種改良をされ続けてきた細辛には実に多くの葉模様が存在し、その模様は斑芸(ふげい)と言われます。

斑芸は色々な芸で構成されており、芸には一つ一つ名前がついています。(蝶や谷、亀甲など)

さらに、同じ芸でも形や大きさ、出方はバラエティに富んでいます。

「どの芸が出るか。その芸はどんな風に出るか。」

そのわずかな違いがその品種の特徴を司ります。

なので、それぞれの芸の違いを見極めることが品種の特定に繋がります。

 

本芸(ほんげい)を知る

本芸とは、その品種に求められる「あるべき姿」です。この本芸はもちろん全ての品種に存在します。

例えば白牡丹

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葉形:中形の楕円形葉。葉縁は下方へ反る

葉肉の厚い毛葉

葉色:鉄色

斑芸:二重蝶(大・薄緑)、谷(太い・白緑)、髭(白緑)

特徴:良いときは髭が二段のときもある(通常は一段)

襟合せ:深い

 

この姿に何も足されていない・何も引いていないそのままの姿がこの品種の本芸です。「品種を知る」ということと「本芸を知る」ということは同義語と言えます。もちろん植物は生き物ですから、全ての葉が判で押したように全く同じように出るわけではありません。

(同じ日本人でも全員顔が違うのと一緒です)

本芸をしない「幼葉・わき葉」を除き、本芸をするべき葉において大半が本芸をしていればその品種であると言えます。もし判断に困る葉があっても、例えば二重蝶がぼんやりしていて「二重蝶」か「蝶」か分かりにくいなどという場合でも、ぼんやりでも二重になっていれば二重蝶と言えます。ここを見極めるためには慣れが必要ですが、まずはそれぞれの芸をはっきり知る必要があります。

 

上作・作落ち(じょうさく・さくおち)を知る

上で書いた通り、植物は生き物です。同じ株でも毎年必ず本芸するとは限りません。時には何らかの要因で調子を崩し、本芸しないこともあります。出るべき芸が出なかったり、大きく出るべき芸が小さかったり、くっきり出なかったり。他にも葉の形が悪い・小さい・色が薄いなどもあります。そういう事を「作落ちする」と言います。作落ちすると本芸とは見た目が変わってしまうので、その品種である事の証明もできません。

はるか昔、まだ中京地区一帯の狭い範囲で細辛が取引されていた頃は、作落ちした株は取引きどころか他人に見せるということも避けられてきました。本物である証明ができないので、自分の棚にこっそり隠して作り直しをしていたのです。

また、時には本芸よりも多く芸が出たり、立派な芸が出たりするなど素晴らしい変化をすることがあります。

こうした、本芸を越えた葉が出ることを「上作」「上作する」といいます。細辛の愛好家にとっては非常に嬉しい瞬間です。

ただしこれは一過性のもので、まず続きません。次の年には元に戻るでしょう。ですが極まれにこれが何年も固定して出ることがあります。その場合は葉変わり(芽変わり)による新品種として独立することができます。

金牡丹は名古屋市の愛好家の棚で白牡丹の葉変わりから固定されてできた品種です。

 

全ての芸を知る 

品種を見極める時、模様としての芸に言及してきましたが、実はそれだけではありません。見るポイントは大きく分けて4つあります。

①形→そのまま。葉の形です

 全ての品種が♡形では ありますが、形にも品種を示す「芸」としてのあるべき姿が存在します。ですので、葉の形も一つの芸と言えます

②葉の質感(地合(じあい))→葉の表面の質のことです

 大きく分けて毛葉(けば)と輝葉(てりば)に分けられます。(少数派に絹葉(きぬば)と羅紗葉(らしゃば)

品種によってどれに当たるのかが決まっています。同じ模様でも毛葉なのか輝葉なのかで違う品種名がついています。

③色→地色と各芸の色があります

 地色は芸の出ていない本来の葉の色のことで、様々な濃さがあります。その濃さで品種を見極めることもあります。各芸の色は、そこまで大きく変わりませんが、どんな色合いで出るかによって葉の雰囲気はずいぶん変わってきます。

④芸→葉の模様を構成する一つ一つの模様です

 細辛の葉を観賞する上でメインとなるものです。斑芸を構成する主な芸は、蝶・谷・亀甲・髭・下がり藤・斑(ふ)。これらがどんな組み合わせで出るかによって品種が異なります。

さらに同じ芸でも大きさ・形・細かさなど様々なパターンがあり、それらの違いも全て品種を見極める上で重要なポイントです。公式にきちんと分類されているわけではありませんが、大きく、蝶谷系・亀甲系・斑ものに分けられます。

サブになる芸としてはノリ・逆芸・図・覆輪・曙斑・洩れ斑。これらは出たり出なかったり、動きを見せたりと変化しやすい芸たちです。サブながらもこれらをメインの特徴とする品種もあります。

 

この四つの内容を把握して、さらに品種ごとの特徴と照らし合わせることで品種の特定をすることができます。