古典園芸植物 細辛の世界

四代続けて細辛の栽培、品種作出をやっています。細辛の未来を危惧して、途絶えさせないためにも品種の紹介や栽培方法の情報放出をしていこうと思います。

斑の解説

斑(ふ)とは、簡単に言うと点々模様です

蝶や亀甲などのように定まった形を伴わない模様をひとまとめにしたものです

「斑もの」というカテゴリーがありますが、それにとどまらず蝶谷系や亀甲系でも多くの品種に斑は現れます

また、大きさや形・色・出現の仕方など色々な種類があり、どの斑がメインで出るかにより葉の雰囲気はずいぶん変わります。さらにその変化が品種ごとの微妙な違いを形成しています

 

 

 

大きさの違い(霰斑・胡麻斑・砂子斑)

 霰斑(あられふ)>胡麻斑(ごまふ)>砂子斑(すなごふ)

 ①霰斑・・・大小不規則な、霰状の斑

胡麻斑より大きいものは全て霰斑です

小さな霰斑と胡麻斑との明確な線引きはありません

赤い丸で囲まれたような大きさのや、もっと大きいのは全て霰斑です

形は関係ありません

丸かろうが複雑な形をしてようが大きめなら全部霰斑になります 

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品種:白雪(しらゆき)

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品種:白雪

 

ちなみに、こんなのも霰斑です

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品種:日の出(ひので)

 

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胡麻斑・・・胡麻粒ほどの小斑点

霰斑より小さく、ゴマ粒大くらいの斑です

これもどんな形であれ大きさが合っていれば全て胡麻斑です

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品種:老いの友(おいのとも)

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品種:白雪(しらゆき)

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品種:高千穂(たかちほ)

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③砂子斑・・・極小さな小斑点

針の先でつついて点をつけたようなサイズの斑です

赤い丸の中にたくさんの砂子斑が出現しています

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品種:高千穂(たかちほ)

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品種:瑞王鶴(ずいおうかく)

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品種:優宝(ゆうほう)

 

斑がある品種は大抵この3種類の斑が混在しており、霰斑が主の品種と砂子斑が種の品種を見比べた時その差は歴然としています。大きさは品種によって固定されており、大きく変わることはありません

 

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品種:大斑泰山(おおぶたいざん)

霰斑メイン

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品種:羽衣(はごろも)

砂子斑メイン

パッと見、点描画のように見えますが、霰斑や胡麻斑もしっかり混じっています。ですが、その間がビッシリ胡麻斑で埋まっているため点描画のようになります

大斑泰山も羽衣も各種の斑のみで形成されていますそれが大きいか小さいかでこんなに違いが出ます

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ささめ雪(ささめゆき)

砂子斑メインです

よく見ると各種の斑が葉脈をきっちり避けて出ているのが分かります

これにより紺亀甲が現れます

霰斑メインの品種はあまり葉脈を意識させないような出方をしますが、砂子斑メインの品種は砂子斑~霰斑まで葉脈を避ける傾向に見受けられます


形の違い(切り斑・流れ斑)

主に霰斑における違いで、見慣れないと見分けるのが難しい芸です

そのためか、銘品で偽物が本物を駆逐した例があります

葉を見るときは斑一つ一つを見るよりも切り斑と流れ斑を理解した上で全体を見て判断する必要があります

 

①切り斑・・・何かの切り口のような鮮明な斑

形や大きさは様々だがそれぞれの斑が独立して出現しています

輪郭もはっきりしているため、葉全体がパリッとした印象になります

 

水滴で表すとこんな感じ

形は違えど、どれもはっきりしています

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霰斑主体の切り斑

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砂子斑主体の切り斑

 

切り斑のことを霧吹きの「霧斑」と勘違いする例が昔あったそうです

おそらく砂子斑で形成された芸の事を指して言っていたかと思われますが、「霧斑」という名前の芸は存在しません

 

②流れ斑・・・水が流れているような模様の斑

よく見るのが中央から葉縁に向かって流れたように斑が出現している状態

一部輪郭がはっきりしない事も多く、流れ斑で構成されると葉全体が柔らかい印象になる

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霰斑主体の流れ斑

濃い緑が斑

ほとんどの斑は水が流れるような形をしている

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霰斑~砂子斑まで多く混ざった状態の流れ斑

形だけでなく、それ以上に斑が鮮明ではなくぼんやりと出現している

 

切り斑か流れ斑か

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品種:白雪

基本は上の方にあるパリッとした芸ですが、年や葉によってこのように出ることもあります。白い部分が斑。斑をよく見ると切り斑が多いですが、地色(濃い緑)が流れ斑のような形に取り残されているため流れ斑メインのようにも見えます

切り斑とも流れ斑とも言い切れない中間の状態です

 

「偽物が本物を駆逐した例」を紹介します

細辛銘鑑でも常に銘品として鎮座する品種です

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↑今、三保の松とされているもの

流れ斑が主

↓昔の三保の松

切り斑が主

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2つの三保の松、違いが分かるでしょうか?下の写真はスパンスパンと切ったような斑がくっきり出て全体にメリハリを感じます

上の写真は斑の境界線こそはっきりしていますが、どこまでもダラダラと流れるような形の斑が主でいまいちメリハリがありません

 

どの品種においても、切り斑のみ・流れ斑のみということはなく、大抵両方出ており、その中でもどちらが主で出ているかが重要です

流れ斑メインよりも切り斑メインの方が品があり美しく見え、実際に昔から切り斑の品種の方が銘品として扱われます

ですが、切り斑・流れ斑のどちらが良いと思うかは、自分の好みに合わせてもらえればいいかと思います

ちなみに私は切り斑の葉と流れ斑の葉をあえて表現するとしたら切り斑の葉は子供用の塗り絵、流れ斑の葉は水彩画と考えます

正確に表現しきれているわけでもないですが、見分けの参考になったら幸いです

 

くっきりはっきりした模様もきれいだけど、水彩画の柔らかタッチな模様も捨てがたい

結論:どっちもエエ(*´▽`*)

(ただし、品種特定の要素として見るときは容赦なし)

 

色の違い(浅斑・桜斑)

濃い緑の地色に白っぽい緑の斑

それが全てだと思っていませんか?

じつは違います

よく見ると斑は1枚の葉の中に複数の色で存在しています

 

浅斑(あさふ)・・・斑色が鮮明ではなく、地色に近い斑

一番濃い緑の部分を地色としたとき、たいてい一番白に近い色が各種の斑(霰斑・胡麻斑・砂子斑・切り斑・流れ斑)

その中間色となる少し薄い緑や明るい緑などは全て浅斑になります

地色と白い斑の2色だけでも斑が鮮やかに浮き出て美しいですが、浅斑が入ることで色使いが複雑になり、また違った美しさに変わります

 

迷彩柄使うとこんな感じ

地色でもない、霰斑等でもない、他の色の部分は全部浅斑になります

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*以前に載せてあった画像は浅斑と各種の斑が逆に文字入れしてあったので訂正とお詫び致します

 

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品種:華心(かしん)

これは逆芸なので薄い緑が地色、濃い緑が各種の斑の色

その中間色(場所によって薄い・濃いあり)は全て浅斑です

矢印で示すにはちょっと複雑ですが・・・

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品種:白雪

こちらは濃い緑が地色で極薄い緑が各種の斑。

そして、その中間色全てが浅斑です。

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↑浅斑ガッツリ

↓浅斑なし

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桜斑(さくらふ)・・・夜桜(よざくら)の斑芸をいう

白と濃い緑とのコントラストが強く、また、白い部分にも浅斑が多く混ざるため、色合いや模様が複雑になっています

濃淡の差が強く鮮やかな見た目をしている

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↑夜桜


珍しい霰斑(斑の集合体・霰斑の中の砂子斑)

・斑の集合体

色の違う霰斑や胡麻斑の集合体により霰斑が形成されているように見える斑

蘇雪(そせつ)と蘇玉(そぎょく)という品種に見られる斑(どちらも未登録品種)で、まだ斑の名前もありません

普通の斑が出る葉に比べて荒い印象に見えます

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蘇雪(そせつ) 

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濃い白の斑と薄い白の斑が合体して出ている様子

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・霰斑の中に入る斑

満月(まんげつ)という古い品種に見られる斑

霰斑の中に地色の砂子斑が入り、少し不思議な見た目になっている斑です

ちなみに満月は絶対にこのタイプの斑になります

 

場所による(要斑)

要斑(かなめふ)・・・葉柄の周りに有る、地色の部分の斑

茎が葉を支える要になるところに発現する斑です

「斑」とは言いますが。正確には周りの斑や下がり藤、ノリなどに囲まれて基部のみに地色が残っている状態を要斑として言い表しています

六歌の華

要斑は無し。基部まで全てを濃いノリが覆っています

 

太陽

要斑の存在が最も重要とされる品種です。こちらも濃いノリがかかっていますが、基部は絶対にノリがかからず、地色が要斑として残ります。雲の隙間から太陽が顔をのぞかせているようだと表現されていました。これが名前の由来になったかは定かではありません。

 

長命楽

この品種もまた、ノリが濃くかかると太陽のように要斑がはっきり表れます

 

色々な要斑の姿

逆芸品種では、要斑がよりはっきり、また、斑らしく見えます

逆芸の記事で解説した、「逆芸は存在しない」として考えると、巨大な薄い緑の斑に囲まれて基部の部分のみ濃い地色が残っているという解釈の仕方もあります

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品種:煌滄(こうそう)

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品種:高楼の宴(こうろうのうたげ)

要斑は地色なので、もちろん谷があれば谷によって分断されます。また、周りの斑の入り方次第では大きく広がっていきます

 

このように斑によって分断されないとそのまま葉先まで到達していきます

 

下がり藤と巨大な玉によって要斑がまるで一の字のように変化しています

 

時期による(曙斑・覆輪・転覆芸)

曙斑(あけぼのふ)・・・後暗みする黄色い斑色

葉が展開するまで全体またはまだらに黄色い斑(実際には斑というより地色が黄色いような見た目)が出て、葉の展開後から徐々に地色が濃くなり消えていく斑のことをいいます。「後暗み(のちぐらみ)」とも表現されます

曙斑の出る品種→金星光・帝冠

金星光は曙斑が展開後消えて無くなります。そのまま消えずに図として残るのが「金星光の図」です

 

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葉の成長期の帝冠。曙斑がまだらに出ています

 

雪光殿(未登録品種)

多くの葉に曙斑が現れます。まだらに出たり、全体に出たり、黄色の濃さや有無は様々で、全くの緑の状態で展開する葉もあります

下は同じ株の夏の様子

曙斑はすっかり消え、通常の地色に変化しています

 

雪光殿の曙斑いろいろ

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覆輪(ふくりん)・・・葉のふちを縁取るように出現する斑をいいます。極細いものは糸覆輪と呼ばれます

(時期による芸ではないですが、便宜上ここに‥‥‥)

覆輪のある品種→仙力・帝冠・天竜・白蝶

 

天竜

葉縁に霰斑が集まり連なることで覆輪を形成しています。覆輪状になったものが天竜の本芸です。

仙力も通常はただの霰斑ですが、上芸すると天竜のように覆輪を形成します

 

白蝶

一見、覆輪には見えませんが、よく見ると霰斑の集合体が覆輪となって葉を縁取っています

 

帝冠

霰斑の集合体ではない、なだらかな線状の覆輪を持つ唯一の品種です。色は黄色で、太さに幅がありますが、幅によって品種の違いはなく全て帝冠です

 

 

転覆芸(てんぷくげい)

曙斑と覆輪を持つ帝冠は、曙斑から覆輪へと変化します

このような、葉の成長期とその後が違う模様になる芸を転覆芸と呼んでいます

 

4/4撮影

 

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5/7撮影

曙斑が消え始め、覆輪(細いので糸覆輪)を形成し始めている

葉全体にまだ色がのっていないまま、覆輪が現れ始めています

 

曙斑?

基本的に、細辛の大半の品種には曙斑は現れません。ですが、時折、曙斑にならないはずの品種で曙斑のように薄い色で葉が展開することがあります。

これらは別の品種です。本芸とかなり見た目が違っているので品種名は載せないでおきます

 

同じ環境・同じ管理・同じ品種でも普通の葉に混じって、中にはこのような状態で展開する葉があります。地色が薄いどころか、葉自体もペラペラで、芸も見えないこともあります。まるで株が弱ったように感じてあせるかもしれませんが、大丈夫です。特別な対処はせず、そのまま栽培していってください。夏が近づく頃には通常の健康的な葉に変化します。

イレギュラー(洩れ斑・虎斑・図)

洩れ斑(もれふ)、虎斑(とらふ)、図(ず)

①洩れ斑・・・斑芸の対象にならない斑

簡単に言うと葉っぱのミスプリントみたいなものです

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品種:日の出(ひので)

本当なら右側のような地色と斑模様が左側にも無きゃいけないところ、

巨大な霰斑によって模様が消されてしまっています

こういうプリントミスみたいのを洩れ斑といいます

上の2枚の写真で、右の写真のように半分まで斑が覆っている状態を「源平もよう」ともいいます

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品種:夜桜(よざくら)

これも左側にある巨大な霰斑のせいであるべきはずの模様が消えてしまっています

まあ、こういうミスプリントも生き物である以上あって当たり前ですし、

個性的で面白いと思います♪

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品種:煌滄(こうそう)

ちなみに、この濃い緑の谷が本芸ですが、

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これも洩れ斑の谷です

本来あるべき濃い緑の谷を、地色と同じ薄い緑の斑が覆いつくしていると考えれば

分かりやすいかと思います

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もう一つの洩れ斑の意味として「普段出ないものが出る」というのもあります

最中の月の玉の周りに斑が出ることもあり、それは洩れ斑となります

要は、本芸から洩れている斑ということです

↑金牡丹

本芸は蝶・谷・段髭

↑金牡丹

蝶や段髭の周りに多くの斑がある

もっと多く出て金龍宝のようになれば「上芸した」とも言えるが、この程度ではあってもなくても関係ありません。洩れ斑は出現の有無も数も一定しません。わずかな数の洩れ斑なら色々な品種で、蝶の周りでよく見かけます。

 

おかめ

蝶・谷・玉と、わずかな胡麻斑や砂子斑が入るのが本芸です。変化の多い品種で、斑の入り方のパターンは様々です。連結二重蝶まで出ると見た目の豪華さは格段に上がりますが、それ以外はどれだけ斑が現れても洩れ斑扱いです。

写真は葉全体に霰斑・胡麻斑・砂子斑がある状態

 

おかめ

わずかな胡麻斑と砂子斑

この程度でもおかめの本芸として何の問題もありません

 

谷間の雪

まるで二重蝶を真似したかのような洩れ斑です。でも二重蝶ではありません。下の段がこんなに小さな二重蝶はありません

 

②虎斑・・・一部分が変色した箇所のこと

これは庭に植わっているツワブキの葉ですが、

こういう模様が細辛では虎斑と呼ばれます

季節柄の劣化とは違い、葉が展開する春からもう出現します

一過性のものなので、毎年出るとは限りません

なので、来年この葉っぱたちが真緑だったら

「地味になったけど健康になってよかったね」ってとこです

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③図(ず)・・・葉の一部が地合と違うこと

縮んでいたりもする

上記の虎斑と見た目は変わりません

白く出るものもあります

違うところは、「毎年出るか出ないか」

図は毎年必ず出ます(〇〇の図と言われる品種)

 

昔の人はこういうのをありがたがったようですが・・・

さっぱり理解できないのは素人だからですかねぇ

だって、七福寿の図を見てると「終わりの始まり」って感じがします

六歌仙の図に至っては終わりかけw間もなく召されそうwww

上二枚の葉の方がよっぽどキレイだと思うんですが・・・

それとも儚さがいいのか・・・???

どこかにまだあるなら実物見るだけは見てみたい気もします

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品種:七福寿(しちふくじゅ)

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品種:六歌仙の図(ろっかせんのず)