斑芸解説の「斑」のところにも軽く書いてありますが、きちんとまとめたので新たに図(と虎斑)だけの記事を作りました。
なお、カンアオイの芸は詳しくなく、芸の解釈の相違を知らないので、細辛に限定しての解説とさせて頂きます。
図は他の芸とは違い、出れば出るほど美しく、出れば出るほど死に至ることもある芸です。
春粧(はるのよそおい)(未登録)
雪光殿(せっこうでん)(未登録)に図が入った姿
本来は蝶・谷・髭のみ。図が入った時だけ呼び名が変わる。図ほど継続せず虎斑ほど単発でもない。自由気ままに出現する図をもつ。そのメカニズムはただ今研究中。
・斑と図
細辛は斑入り植物です。狭義では斑とは霰斑・胡麻斑・砂子斑といった形を持たない模様を指しますが、広義では蝶・亀甲・下がり藤など全ての芸も含まれます。その証拠に、亀甲の事を亀甲斑・玉の事を玉斑・また、下がり藤の一部を雲紋斑とも呼びます。細辛においての「斑」とは地模様です。多少変化はあれどそれらは安定して継続しなければならず、どれだけ多く斑が出ても株の健康には何の問題もありません。
それに対して図は、斑とは全く違う性質を持ちます。葉面の様々な場所に不規則に出て、出現の有無、サイズもまたバラバラです。葉の色素は三層あると聞いています。その色素が何層抜けるかで図の白さが変わります。だいたい黄色から象牙色をしており、葉緑素が葉の深いところまで抜けるほど白くなります。また、図は葉裏からも透かして見ることができます。多くの場合、図の出現により葉が委縮して葉形は崩れます。本斑(ほんぷ)という呼ばれ方もされますが「本」来の「斑」ではありません。
↓紅孔雀(べにくじゃく)の葉裏
↓蜀光錦(しょっこうにしき)の葉裏
上二枚の写真は葉裏から図が透けて見える様子
↓七福寿(しちふくじゅ)
図の影響で大きく葉形が崩れている様子
↓武者(むしゃ)(未登録)
葉形に大きな変化は無いが図のある葉縁が委縮している
ケロイド状とも表現される
・図のある品種
五十鈴錦・金星光の図・三光錦・七福寿・春瓏・蜀光錦・沼山の図・羅紗丸の図・六歌仙の図
登録除外品種→鬼笑・紅孔雀
↓春瓏(しゅんろう)(2020年撮影)
万秋楽(ばんしゅうらく)(未登録)という品種に図が出たもの。左側の、亀甲のある葉が万秋楽
↓春瓏の花
細辛で唯一、花にも図が出る
↓三光錦(さんこうにしき)
萌黄色の図が毎年出る
↓六歌仙の図(ろっかせんのず)
亀甲に図が出る
↓六歌仙の図
図が無い状態。図が無い時でも全体的に弱弱しい。地模様は六歌仙に似るが別物で、六歌仙に図は出現しない
・問題のある図・問題の無い図
植物学的な見地ではなく、愛好家として栽培した経験上の考察ですが、細辛の「図もの」を見る限り性質として図は二通りあると考えられます
問題のある図→特に「〇〇の図」と呼ばれる品種
地模様である斑が元々あり、そこに図が追加されます。図の出現は株の状態に左右され、小さくなったり消えたりすることもあればどんどん広がることもあります。図の出現により葉が委縮する他、図の面積が増えすぎると株は弱り最悪枯死します
いわゆる、「うぶ」や「ゆうれい」に向かっていく感じです
上の方にある春瓏と同じ株
↓2021年撮影
↓2022年撮影
しばらく万秋楽のままなりをひそめていましたが、2020年に図が出て以来、年を追うごとに図の範囲は増えています
問題の無い図→見た目は図で、図と表現されていますがその性質は斑のようです。毎年出て、どれだけ広く出ても株が弱っていくことはありません。
↓紅孔雀
毎年継続して図が出現する
白く大きく図が出るが弱ることなく美しい姿を保つ
栽培経験に基づいて図ものを区分すると。図が広がって弱っていく品種は、金星光の図・七福寿・春瓏・蜀光錦・羅紗丸の図・六歌仙の図。
健康なまま安定する品種は、三光錦・紅孔雀。
弱らないが継続もしにくい品種が鬼笑です
沼山の図と五十鈴錦に関しては栽培経験が無い為詳細不明です
・虎は逃げる
普通の斑の品種でも、葉の一部に図のように出現することがあります。そのような白や黄色の斑のことを虎斑(とらふ)と呼びます。見た目は図と変わりません。ですが、その葉だけの出現で、次の年に出た新しい葉には出現しません。また、展開後に後暗むこともあります。この一時的に虎斑が出た株が「図もの」としてもてはやされた時がありました。図ものとして取引されても次の年には消えてしまうので、その言い訳に使われた言葉が「虎は逃げる」でした。
「〇〇に図が出たからこれは貴重」として自分で栽培を楽しむことに何の問題もありませんが、それを売買する時は注意が必要です。
雪橋(せっきょう)
春の成長期に撮影
蝶・谷以外にも全体にまだらに虎斑が見える
上と同じ葉を夏に撮影
表はほとんど虎斑が分からなくなっているが、裏からは色抜けを見ることができる。これが曙斑との違い。曙斑と虎斑は見た目が似ることもあるが、曙斑は葉裏からは見えない
・追求はほどほどに
↓金星光の図(きんせいこうのず)
この程度で安定できると理想
↓金星光の図
上とは別の株
年々図が大きくなり、この写真の年を最後に枯死
図ものは昔から価値あるものとして細辛の愛好家から追い求められてきました。斑ほど安定せず、また、安定しない品種ほど品種数も株数も少なく希少性は高いです。さらに、図の状態によっては非常に美しい見た目をしています。ですが、私たちは図=病的なものとして認識しています。深くまで葉緑素が抜けた葉が光合成をできる健康的な葉であるはずがありません。株に力がつけば図は出にくくなりますし、弱弱しく作れば図は出やすくまた大きくなり、図が出すぎれば弱って消滅していきます。
弱らず安定している品種は問題ないのですが、安定していない品種はその追求する匙加減が難しいのです。図が出現しなければ品種としての価値は下がり、図が大きくなれば美しさも増し価値も上がります。それでも株を未来へつないでいくためにも、品種の流通を健全に保つためにも、色々な意味で図ものは深追いすべきではないのです。